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「分量の少ない詰め込み教育」
この「覚え込むから考えるへの転換」を、もっと広い範囲で起こそうとしたのが「ゆとり教育」だった。
ところが、これを教室でやろうとすると、学習内容そのものは少なくなってしまう。しかも、生徒も親も先生も「勉強とは覚えること」という発想にとらわれ、その呪縛から容易には逃れられなかった。さらに、受験制度も基本的には変わっていない。その結果、「ゆとり教育」は単なる学習内容の削減と受け取られてしまった。単なる学習内容の削減であれば、生徒の学力低下を招くのは必然である。
とくに注目するべきは、「ありきたりな勉強法でも何とか覚えられる」程度に学習内容が減らされたため、自ら学習法を工夫する生徒がいなくなったことである。
そうなると、これは「分量の少ない詰め込み教育」でしかない。
皮肉なことに、「ゆとり教育」はその本来の趣旨とは正反対の結果を招いてしまったのだ。
受験産業の存亡を賭けた「反ゆとり」
つまり、日本における「ゆとり教育」の失敗は、「勉強とは覚えること」という固定観念があまりにも強すぎたこと、大学受験などの制度にはほとんど手を付けず、教育改革を学習指導要領の改定だけで進めようとしてしまったことなどに起因すると言ってよいだろう。
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これに対して、フィンランドなどヨーロッパでは、「ゆとり教育」が成功する素地があった。まず、日本のように大学の序列がきつくなく、どの大学に入学したかよりも専門性と学位のほうが重視される。また学力考査の際にも口頭試問で行うという伝統があり、これは「1点の差を争う」といった偏差値教育とはなじまない。また、そのような環境であるため、学習塾などの「受験産業」が成立しておらず、その方面からの抵抗がない。
とりわけ、この「受験産業」のあるなしは、教育改革にとって決定的な意味をもつ。仮に日本で「ゆとり教育」が成功していたとすれば、今あるような「受験産業」は存在理由を失う。文部科学省が「ゆとり教育」の方針を打ち出したとき、学習塾などの業界が、いかに臆面もなくこれを非難したことか。今にして思えば、それは一つの産業の存亡を賭けた戦いであったのだ。
「未知の事態に対処できる人材」を育成する教育へ
だが、「覚え込ませる教育から考える教育へ」、「知識を学ばせる教育から『学び方』を学ぶ教育へ」という教育方針の転換は、先進国における避けられない流れなのである。先述のように、知識は時々刻々と古くなり、学校で覚えた内容も、十年もたてば時代遅れとなっているかも知れないし、とりわけ先進国では、「過去に経験したことのない事態に対処できる人材」を育成する必要に迫られているからだ。
それなのに、日本が単なる知識を詰め込むだけの教育を続けているとしたら、時代に取り残されてしまうのは必定なのである。
ということは、いずれまた日本も、一度は捨てた「ゆとり教育」に向けて舵を切らなければならない時が来るに違いない。そのときに、いかに学力低下を招くことなく、「考える教育」に向けて発想の転換をはかることができるだろうか。
そこに、この国の未来がかかっていると言っても過言ではないだろう。
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