「ゆとり教育」と家庭教育の自己責任
経済格差は教育格差か
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「ゆとり教育」の言い分
文部科学省が鳴り物入りで始めた「ゆとり教育」も、国際的な標準に照らした日本人生徒の学力低下が明らかとなったことで、さすがに軌道修正を迫られることになった。そういう事情もあってか、「ゆとり教育批判」はすでにタイムリーな話題ではなくなった。
だが、総合学習などは、かつての「ゆとり教育」路線を踏襲しているものであって、現在の公立の小学校・中学校で実施されている指導やカリキュラムは、「ゆとり」と「詰め込み」の折衷であると言えるだろう。
子供を公立学校に通わせている親として、あまり評判のよくない「ゆとり教育」について言いたいことは山々ある。だが、ここはまず公平を期して、文部科学省の言い分を聞いてみようと思う。彼らが本当は何をしたいのか知っておかなければ、まともな議論など何もできないからだ。
そこで、かつて文部科学省で「ゆとり教育」のスポークスマン的な存在であった寺脇研氏の著書や、学習指導要領とその解説書などを読んでみた。
これらのなかで最もわかりやすく、しかも簡潔で要領を得ていると思われるのが、『母の友』(福音館書店*)の特集記事である。「ゆとり教育」批判が喧しかった2000年代初め、教育誌としてほとんど唯一これに好意的な論調を展開したのが、この雑誌はないかと思われる。
*この出版社の幼児向け雑誌『かがくのとも』や小学生向けの『たくさんのふしぎ』などの高度な内容をみれば、この出版社が子供の学力が低下していいなどと思っていないことは明らかだろう。
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授業時間削減の理由
これを読んでみると、文部科学省の方針それ自体が、「円周率は3」に代表される、世間でよく言われているような「とんでも低レベル」を指向していたわけではないことは明白だ。週五日制になり、授業時間や学習内容が削減されたことについても、
「子どもの育ちが、すべて学校に委ねられている傾向があるので、週五日制にした。学校が拘束する時間を減らして子どもを家庭と地域に返すから、いろいろな遊びや冒険を是非やってほしい、そのほうが子どもはバランスの取れた育ち方をするのだという考えになりました」(汐見稔幸東京大学大学院教授のインタビュー)
と、説明されている。そういうことであれば、理念そのものは理解できないわけではない。
しかしながら、現在のところ、「ゆとり教育」で大きな成果があったという話は聞いていない。むしろ失敗だったというのが大方の評価ではなかろうか。
では、どうしてそんなことになったのか。
中学受験塾によるキャンペーン
その大きな理由の一つに、「人々の理解を得られなかった」ということがある。
文部科学省としては、「現実社会と接触する機会を増やすことにより知識の応用力をつける」というところに主眼があったはずなのだが、その意図は伝わらなかった。それどころか、教育と直接関係のない一般市民の間でさえも「文部科学省は、ゆとり教育で子供がバカになってもいいと思っているのか」というような会話が行なわれるほどで、「ゆとり教育=学力低下」というイメージが抜けがたく定着してしまった。保護者どころか一般市民の支持すら得られない文部科学省は、いわば四面楚歌の状態に陥ったのである。
誤解の蔓延に拍車をかけたのが、中学受験塾業界によるキャンペーンだった。いかに「ゆとり教育」批判が教育界を騒がせているとしても、大学教授などの書いたその手の本を一般の人たちが手に取る可能性は少ない。ところが、中学受験塾が電車内などに貼り出した広告の効果は絶大だった。「円周率は3」のようなコピーは、そのわかりやすさゆえに、ふだん教育問題など考えたこともない一般の人々の間にもパッと広がり、一人歩きを始めたと言っていい。
そのメッセージは、要するに「『ゆとり教育』をやっている公立の中学校に入れると子供がバカになるから、中学受験させて私立の中高一貫校に入れましょう」というものである。私立の中高一貫校は悪くはないかも知れないが、親の経済的負担は小さくない。別のところでも述べたように公立校も実際はそれほど悪いわけではないのだが、「公立不信」を煽られた親は気が気でないだろう。
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