塾・家庭教師には「構造的欠陥」がある
親だからこそ伸ばせる、これだけの理由
塾講師、家庭教師は「親以上」ではない
「親は、自分の子どもに勉強を教えるべきではない」という説がある。わが子を相手にすると冷静になってはおられず、「なんで出来ないの?」などと口走ってしまうからだそうだ。
確かに、そんなことを言われた子どもは立つ瀬がなくなり、勉強嫌いになってしまうかも知れない。
ふつうはそこで、塾・家庭教師の出番となるようだ。だが、費用の問題は別にしても、それが最善の策であるとは、とても思えない。
利用者からみた塾や家庭教師、いわゆる教育産業の問題点は、それこそいくらでも挙げられるだろう。「教育の質」、「高額の費用」、「親の不安」をあおるなどは、すぐに思いつく点だ。だが、ここでは別の観点から考えてみたい。
簡単に言えば、塾講師にしても家庭教師にしても、教育的な効果として「親以上」の効果はあまり期待できないということである。
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「目先のテスト対策」しかしない
まず、塾講師や家庭教師として教えている人間に、果たして人の親の気持ちがわかるのかは、大いに疑問がある。
家庭教師といえば大半は学生だし、塾講師も若い人が多い。子育ての経験どころか、多くは結婚さえしていないだろうし、将来結婚できるとも期待していないかも知れない。そういう人たちに、親が子どもを思う気持ちに共感しろといっても無理があるのではないか、と思う。
また、これと関連することだが、第二の問題は、塾講師にしても家庭教師にしても、子どもの十年後、二十年後のことまで考えながら勉強を教えることなどない、ということである。
親であれば、子どもの現在の様子もさることながら、十年後、二十年後の将来がもっともっと気になるはずだ。詰まるところは、わが子の十年後、二十年後をよくしたいからこそ、今、塾に行かせ、家庭教師に教えてもらっているのである。
目先の課題を日々こなしていくのが大事であることは論をまたないとしても、テストなどというものは、長い人生における単なる通過点にすぎない。長期的な視点を欠いた勉強は本末転倒だ。
ところが、塾にしても家庭教師にしても、考えているのは次の定期テストの対策か、長くて入学試験までがせいぜいである。知識を身に付けてその後の人生に生かすための教育なのに、試験さえ乗り切ればそれでよしとするような価値観を植え付けてもらっては、子どもの将来にいい影響があるわけはない。
「社会的な常識」がない
また、特に学生の家庭教師について言えることだが、第三の問題点として、社会的な常識が欠けている。
これを言い換えれば、自分のやっている「家庭教師」という仕事をバイトだと思っていて、自営業者としての自覚がまったくないということだ。
そんなことを言うと、「えっ、バイトじゃないの」と思われるかも知れない。だが、一般に家庭教師は、いわゆる「バイト」、つまりパートタイム労働ではない。また、家庭教師センターから派遣されていても、「派遣労働者」ではない。
では、何かといえば、一種の自営業なのである。すなわち、小さいながらも経営者だということだ。したがって、家庭教師にとって生徒(の親)とはクライアント、つまり顧客なのであって、雇い主ではない。また、家庭教師センターも単なる仲介業者であって、雇い主ではない。
つまり、家庭教師のしている仕事は、あくまでも顧客へのサービスなのであって、雇い主のための労働ではないのだ。これがわかっていない家庭教師はあまりにも多い。
一方、生徒の親の立場からすれば、家庭教師には「サービスの対価」を支払いこそすれ、雇用しているとは思ってもみないだろう。
もちろん、この親の意識のほうが「社会的な常識」として正しい。
だが、この意識のずれが、後でトラブルを招く可能性は否定できないだろう。
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「勉強しか教えない」
そして、第四の、とりわけ大きな弱点は、塾にしても家庭教師にしても、基本的に「勉強しか教えない」ということである。
「え!? ちょっと待って!?」
「塾や家庭教師は、勉強を教えてもらっているんだから、しかも『勉強しか教えない』ことの、いったいどこが悪いのだ!?」
もちろん、塾講師や家庭教師であれば、勉強を教えるしかない。別に、ほかのことをやってほしいとか、やるべきだと言っているのではない。それしかできないのだから。
だが、それこそが問題なのである。
では、なぜそれが問題なのかと言えば、「勉強」とは「生活」と別にあるものではないからだ。
机にすわるだけが「勉強」じゃない
とりわけ小学生のうちは、「勉強」と「生活」が強く結び付いている。
例えば、時計の読み方を学ぶのは、文字盤の時計でしょっちゅう時間を見ている子どもにとっては何でもないことである。でも、ディジタル時計しか見たことのない子どもがテキストだけで勉強するなら、相当に難しいと思うのではないだろうか。
時計だけではない。具体的な生活の場面で学んだことは、テキストや問題集だけで学んだことに比べれば、はるかに理解しやすいし、定着もしやすいのだ。
その意味で、子どもと生活をともにしている親のほうが、いろいろな場面を通じて子どもに学ばせるチャンスが多いのは明らかである。買い物に行けば「社会」や「算数」を、散歩して空を見上げるだけで「理科」を教えられるのだから。
それに比べると、「勉強しか教えない」塾や家庭教師を利用することは、一見効率的なようでいて、実は極めて記憶に残りにくい、不利なやり方なのではないだろうか。
実際、まだ抽象的な思考が発達していない時期には、塾などに入れるよりもいろいろな体験をさせたり、絵本などを読んであげたりしたほうがいい。(注1) (注2)
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(注1) 理科や社会に関する絵本として、とくにすぐれているのが福音館書店の『かがくのとも』と『たくさんのふしぎ』のシリーズです。『かがくのとも』は、幼稚園年長から低学年向き、『たくさんのふしぎ』は、小学校中学年向きということですが、いずれも、もっと年上の子どもでもよろこびます。いくつか単行本化されているものもありますが、品切れも多いですし、すばらしい内容のものでも単行本になっていないものがありますので、定期購読をおすすめします。 |
(注2) 算数の絵本としては、『はじめてであうすうがくの絵本』(安野光雅)は、もはや古典です。幼稚園くらいから読めるもので、計算などは出てきません。トポロジー、関数など、幼稚園児でもわかってしまうところがすばらしいです。計算ぎらいの小学生にもおすすめです。 『算数の探検』(遠山啓ほか)は、計算のしかたを、「これでもか」というくらいに、ていねいに説明した絵本です。対象は中学年以上です。これをいっしょに読んでいれば、親が説明のしかたをどうこう悩む必要はもうありません。 『算数おもしろ大事典IQ』は、算数・数学のおもしろい話題が満載の、小学生向きの数学史といった内容の本です。小中学生が「アキレスと亀」を知っているなんて、すばらしいと思いませんか。 いずれも、詳細は、こちらです。 |
場合によっては、塾通いなどのせいで、こういう体験が不足していることが学力不振の原因ではないかと思うことさえあるくらいだ。
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塾の講師は「子どもの手本」にならない
また、いっしょに暮らしているからこそ、親が勉強している姿を見せることができる。子どもにとっては、大好きなお母さんやお父さんが勉強しているからこそ、「勉強って大事なことだ」とわかるのである。
これに対して塾講師や家庭教師がそんな姿を見せるわけはない。
とりわけ塾の時間講師(場合によっては専任講師も)などには、一般のバイトと大差ない待遇で働いている人たちも大勢いる(家庭教師と違い、塾の講師は労働者である)。まことにお気の毒ではあるが、こういう人たちは、いわば「勉強なんぞ出来ても大したものにはならない」という見本みたいなものだ。(もちろん、「勉強ができる」ということに価値がないわけではなく、「ほかの何か」と組み合わせてこそ、勉強の価値が生きるということである。だから、本当はその「組み合わせ方」を学ばなければいけないし、組み合わせられるように勉強しなくてはいけない。塾の講師とは、組み合わせができていない典型である。)
もし、あなたが本気で子どもに「やる気」を出して勉強してもらいたいと考えているのなら、そんな大人たちを子どもの前に立たせることのリスクについて、思いをめぐらせるべきではないだろうか。
親こそが「すぐれた先生」になれる
こうしてみると、一般的な塾や家庭教師などに比べるならば、その気になれば親のほうがよりよく教えられる可能性が高いとさえ言える。
なぜならば、親のほうが、少なくとも
・
長期的な視野にたって教育できる
・
社会的な常識がある
・
生活の具体的な場面のなかで教えられる
からである。これらは、塾や家庭教師などに比べて、圧倒的に有利な点だと言えるのではないだろうか。
とはいえ、いざ「子どもに勉強を教える」となると、躊躇されるお父さん、お母さんは多いに違いない。「忙しくて時間がない」とか、「どうやって教えたらいいのかわからない」と思うのがふつうの反応だろうと思う。また、最初に述べたように「親は、自分の子どもに勉強を教えるべきではない」という説も根強い。
これは、「勉強を教える」となると、つい「家庭教師」のように、あるいは「塾講師」のように教えなければならない、という先入観にとらわれてしまうからだ。
そんな先入観のせいで、「悪い見本」をマネしようとするから、うまくいかないのである。「どうして出来ないの」などと言ってしまったりするのは、親が「家庭教師」をやろうとしているからだ。
「教えない教え方」がベスト
ここは、気楽に考えてほしい。
「子どもに勉強を教える」などと大げさに考える必要はない。それに、肩に力を入れたりするのは、かえってよくないのである。
大事なのは、むしろ「教えるより見守る」という姿勢を保つことだ。「教えない教え方」については別のところで詳述するが(例えば、教育の悩み相談Q&A)、「教える教え方」よりも「教えない教え方」のほうが、むしろ子どものやる気を引き出すし、頭のいい子を育てられる可能性がある。
そして、子どもと生活をともにしている親こそが、「教えない教え方」を実践することができるのである。
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